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中央ヨーロッパを巡る鉄道旅行

2023.05.18

ドイツ・チェコ・リヒテンシュタイン

学生時代に西洋史を学んでいたにも関わらず、一度も中央ヨーロッパを訪れたことがないことにちょっとした後ろめたさを感じつつ、早30年近くが経ってしまっていました。今回、頭の片隅にかすかに残っているドイツ語を思い出しながら、ドイツを中心に鉄道でぐるりと一回りすることができたので、周辺の国々も含めて印象的だった町をいくつか紹介したいと思います。

〈ベルリン〉
ベルリンと言えば、もうずいぶん古いことではありますが、どうしても「壁」のイメージとともに東西冷戦や共産圏といったかつてのバックグラウンドが思い出されました。実際、町には部分的に壁が保存され、ギャラリーとして活用されている場所もあります。また、壁が巡っていた場所には、石畳でそのラインが明示されていて分断されていた頃の風景がイメージできます。逆に言えば、もうそれくらいしか当時の痕跡は見いだせないとも言えます。
このベルリンで今やソウルフードになっている食べ物がケバブサンドです。移民を多く受け入れているドイツでは、様々な国の人々が暮らしています。特にトルコ系の人たちが多く、彼らがケバブをドイツへもたらしたようです。肉を筒状に積み重ねて回転させながら焼き上げ、それを薄くそぎ落としてパンに挟みこんでいく。野菜の種類も数多くあり、それぞれの好みを聞きながらトッピングしてくれます。おいしさは抜群なのですが、量が多いため、もうその日の食事は要らないくらい満腹になってしまいます。
そのほか、ベルリンではHackepeter(ハッケペーター)と呼ばれる食べ物があります。これは生の豚ミンチをパンにのせて食べるもので、生の豚肉を食べるのは世界でもドイツだけだそうです。もちろん、豚肉の管理は厳しくなされていて、生食できる基準を満たした肉だけが販売されているとのことです。味は思った以上にあっさりとしていて、玉ねぎや胡椒の辛味が程よく、ワインのお伴にも良いのではと感じました。

  • ベルリンの壁

    ベルリンの壁

  • ハッケペーター

    ハッケペーター

〈プラハ〉
ヨーロッパの中でも古い建物が残り、全体として古都のような雰囲気を醸し出している町です。町の中心部のほとんどは、細かい石を組み合わせた石畳でできており、中世の町並みがそのまま残っているかのような錯覚に陥ります。町の西側にはヴルタヴァ川が流れ、14世紀に架けられたカレル橋を渡れば、大聖堂・宮殿・塔など様々な建物が集まったプラハ城の姿が目に入ってきます。第二次大戦時に大規模な空爆を受けなかったことも現在までプラハのこの景色が続いている理由の一つになるようです。
プラハでの一番の楽しみは、ビアホールで飲む自家製ビールです。500年以上続いている伝統的な醸造所からおしゃれなカフェまで色々な雰囲気のお店があります。ウーフレクという老舗では、でっぷりと肥えたウェイターが大きなお盆にビールジョッキをいくつも載せて、お代わりは要らないかと声をかけながら渡り歩きます。同じようにアコーディオン奏者もテーブルの間を歌い歩いていきます。合間にハチミツ酒やハーブ酒も回ってきて、昼間からついつい飲みすぎてしまう有様でした。

  • プラハの町並み

    プラハの町並み

  • ビアホールにて

    ビアホールにて

〈リヒテンシュタイン〉
この国は宮古島くらいの面積の小さな国です。オーストリアとスイスという内陸国に囲まれているため、二重内陸国と呼ばれるそうです。当初は、スイスへ抜けるために通過するだけの予定でしたが、せっかくなので立ち寄ることにしました。手持ちのガイドブックにはこの国の記載がまったくなく、ドイツの人からもリヒテンシュタインへは何をしに行くのと言われるような始末でしたが、訪れてみて景色が素晴らしいということが良く分かりました。
リヒテンシュタインの町は、アルプス山脈から流れ出るライン川が作った谷筋にあり、川の両側には急峻な山がそびえています。ある程度の高さまでは杉林が広がり、緑の絨毯の中に家が点在している様子も見えますが、標高が上がるにつれて灰色の岩肌が顔をのぞかせ、最後には雪山の姿に変わります。あまりに大きな景色が目の前に広がるため、遠近感をおかしく感じてしまうほどです。空気が澄んでいて遠くまで木々や家々がはっきり見えることもそうさせるのかもしれません。
午前4時ごろふと目が覚めて窓の外をみると、山の上に太陽のようにまぶしい光がありました。一瞬、どうなっているのか分かりませんでしたが、満月が西の山に沈もうとしているところでした。遠くからは牛の首につけられたベルの音がカラコロと響いていて、時間の感覚を忘れさせるような光景でした。

  • 雪が残る山並み

    雪が残る山並み

  • アルプスに沈む満月

    アルプスに沈む満月

今回の旅行でパスポートのチェックを受けたのは飛行機での出入国の時のみでした。陸路で国境を越えるときに別の国に来たという感覚はなく、いつ国境線を越えたかどうかも定かではない場所がほとんどです。そんな風に人や物が簡単に行き来できる国同士の自由なつながりが今さらながら強く印象に残りました。パスポートに各国のスタンプを集めることに楽しみを見出していた古いタイプの旅行者にとっては物足りなさを感じてしまいますが、この垣根のない広がりはこれからも大きくなっていくのだろうなと実感しました。

( Y )